厚生年金基金が国に代わって運用している厚生年金の代行部分の会計方法をめぐり、基金と会計士の間で論争が起きている。基金に給付責任のない部分は退職給付債務から除くべきだとする基金側に対し、これまでの会計ルール通りに全額を債務とするよう主張する会計士側。議論が紛糾し、年内に出るはずだった結論は来年に持ち越された。企業財務に大きな影響を与えるだけに、議論の行方に注目が集まっている。
(2005/12/26 日経金融新聞 3面)
当記事は、厚生年金基金の代行部分の会計処理をめぐり「従来通りのルールで債務を評価すべし」とする会計士サイドと「代行部分の正当な評価額である最低責任準備金で評価すべき」とする厚生年金基金サイドの間で論争が起きているというものである。
2001年3月期決算より導入された退職給付会計基準により、退職金や企業年金の積立度合いが母体企業の財務諸表に反映されるようになった。退職時に見込まれる退職給付の総額(退職給付見込額)のうち期末までに発生している分を、一定の割引率で割引計算したものを退職給付債務としている。退職給付会計基準の導入自体は「簿価から時価への移行」という時価主義の流れに沿ったものであり、異論を挟む余地は全く無い。当記事で論点になっているのは、退職給付債務のうち厚生年金基金の代行部分についてである。
代行部分の法律上の債務は、厚生年金保険法等で定められた最低責任準備金である。基金が代行返上を行う際は、この最低責任準備金相当額を返還すれば良い。ところが現行の退職会計基準では、この代行部分についても上乗せ部分(=純正な企業年金部分)と同様に割引計算することを求めている。退職給付債務の割引率には長期国債などの利回りが主に用いられるが、昨今の低金利を反映して割引率は低くなっているため、代行部分の退職給付債務は一般的に最低責任準備金よりも大きくなる。つまり、代行部分についても現在の会計基準を機械的に適用するため、返上時に支払えばよい額(最低責任準備金)を不当に超過している事になる(下図の黒塗りの部分)。

現行基準では、低金利下では「代行部分の退職給付債務>最低責任準備金」となる一方、金利上昇局面では逆に「代行部分の退職給付債務<最低責任準備金」となる。金利変動でここまで債務がフラフラするようでは、そもそも認識方法自体に問題があると言わざるを得ない。代行部分については、最低責任準備金という明確なモノサシがある以上、素直にこれを用いるのが「現状を正確に写し出す」という会計の役割に則したものだと思うが。
ここ1・2年、代行返上により特別利益を計上する企業が相次いでいるが、これはまさに、代行部分について過大な債務認識を強いられていたものが代行返上により解除されたためであり、実際にそれだけの資金が企業に入る訳ではない。つまり代行返上益なんて見せかけに過ぎないってこと。
しかもこの会計処理には「原則は過去返上完了時に損益を計上するが、将来返上認可時点でも損益計上できることとする」という特例がある。要は、代行返上の意思表示さえすれば未実現の利益を計上してもOKつうこと。おいおい、飲み屋のツケ払いじゃないんだから!
ここまでくると、粉飾決算の片棒を担いでいるようなもの。「代行部分と私的年金とで分割管理されていない」とする会計士サイドの主張も分からぬでもないが、一方でルールの厳格化を唱えながら、もう一方では特例措置による事実上の野放し状態では説得力に欠ける。これは連結会計の全額時価評価法や税効果会計の繰延税金資産にも言える。
もっとも、基金サイドの反撃も遅きに失した感がある。単独・連合型基金(大企業が中心)の85%以上がすでに代行返上に動いており、2005年12月1日現在で残っているのは僅か145。代行返上は既に終盤局面にある。これもひとえに年金基金サイドの政治力の無さの賜物か(汗)。
<関連エントリ>
The企業年金BLOG: 代行部分の会計処理、進展見られず
厚生年金の代行部分「退職給付債務」 会計処理でさや当て (記事全文)
