2008年08月29日

最低責任準備金の利率がマイナスに!?

すっかり忘れていたが、今月上旬に公的年金の2007年度収支決算が発表された。これによると、厚生年金本体の運用利回りは▲3.54%厚生年金本体としては初のマイナス利回りを記録した。かつてGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人、旧年金資金運用基金)が2000〜02年度にかけて3年連続マイナス運用を記録した時代でさえ厚生年金本体はプラス利回りを堅持していただけに、一瞬目を疑ってしまった。
なお厚生年金本体とGPIFの運用利回りの推移は以下のとおり。

 <年度>  <厚年> <GPIF>
 1997年   4.66%   7.15%
 1998年   4.15%   2.80%
 1999年   3.62%  10.94%
 2000年   3.22% ▲5.16%
 2001年   1.99% ▲2.48%
 2002年   0.21% ▲8.46%
 2003年   4.91%  12.48%
 2004年   2.73%   4.60%
 2005年   6.82%  14.37%
 2006年   3.10%   4.75%
 2007年 ▲3.54% ▲6.41%


ところで、厚生年金本体の運用利回りは、厚生年金基金の代行部分(最低責任準備金)に付利する利率の指標となるが、果たして2009年(暦年ベース)は上記のマイナス利率が用いられるのだろうか? 生保会社信託銀行が協会経由で行政に照会したところ、どうやらマイナス利率が適用される可能性は高いようである。まあ、12月の告示を待つこととしよう。

なお、特別会計に関する法律の成立・施行に伴い、従来は国民年金特別会計(国民年金勘定)と厚生保険特別会計(年金勘定)という区分だったものが、2007年度から年金特別会計(国民年金勘定・厚生年金勘定)に再編されている。豆知識つうことで。


厚生年金・国民年金の平成19年度収支決算の概要(社会保険庁) (pdfファイル)






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2008年08月27日

ネガティブな内容でなければ一面は飾れない!?

上場企業 年金積み立て不足額3.6倍 5年ぶり増 (NIKKEI-NET)
上場企業の年金の積立不足額が5年ぶりに増加に転じた。2008年3月期の不足額は7兆3162億円と前の期比3.6倍になった。昨年度は日経平均株価が約28%下落し、年金運用資産の4分の1程度を占める国内株式運用が振るわなかった。企業は積み立て不足を一定期間で償却、損益計算書に計上する必要があるため、将来、業績への負担が膨らむ可能性がある。
(2008/8/27 日経朝刊 1面)

そりゃ退職給付会計は時価評価が原則なのだから、運用環境が良ければ積立不足は減るし、逆に運用環境が悪ければ積立不足は増える。至極当たり前の事象であって、一喜一憂するほどの事ではない。しかし、退職給付会計に関する日本経済新聞の報道姿勢には疑問が多い。同トピックにおける直近3年間の報道記事を見れば一目瞭然↓

 ・2008年8月27日 (朝刊1面)「年金積み立て不足額3.6倍 5年ぶり増」
 ・2007年9月19日 (朝刊17面)「企業の年金積み立て改善」
 ・2006年9月8日 (朝刊17面)「年金積み立て不足 7割減」


ご覧の通り、昨年および一昨年のような運用環境が良好な時はベタ記事扱いで、今回のような悪い数値が出たときに限って一面で大々的に取り扱っている。しかも掲載時期も微妙に早める用意周到さ。単に数値の大小で一喜一憂する様は、とても日本を代表する経済専門紙の所業には非ず。こんなトンマな記事でも、日経の一面だというだけで真に受ける輩は多いだけに尚更始末が悪い。社労士やFPなどの専門家ですら例外ではない(ココとかココとか)。

あげくに、積立不足増加を受けて「確定拠出年金(日本版401k)への移行が加速しそうだ」ときたもんだ(苦笑)。移行させたくてしょうがないのは日経新聞だろうが。既に当BLOGでは何度も言及しているが、そんなに恣意的な報道をしてまでDCを広めたいのならば、まずは日経新聞自らが日本経済新聞厚生年金基金を解散してDCに移行するべきだろう。


<関連エントリ>
The企業年金BLOG(2008/5/23): 金融のプロ(苦笑)ですら自身の老後準備には無頓着
The企業年金BLOG(2007/8/8): 確定拠出年金は隗より始めよ!?



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2008年08月19日

公的年金の資産運用に関する論点整理

運用益か、安定か 年金の積立金140兆円 (asahi.com)
公的年金の積立金140兆円は年金給付の貴重な財源だ。運用益が上がれば将来受け取る年金は増える。現在は国債が中心だが、「株式や海外投資を増やし、より高い収益を目指すべきだ」と、見直しを求める声が強まっている。どのような方法が望ましいのだろうか。(太田啓之)
(2008/8/19 朝日朝刊 3面)

本日の朝日新聞朝刊に掲載された上記の記事は、公的年金のみならず企業年金の資産運用を考える上でも「最低限これ位は押さえとけ」的なトピックが凝縮された良質な記事であった。主な特記事項は以下のとおり。

◆昨年度(07年度)は赤字だったが、累積ではまだ7兆円以上の黒字
◆運用環境が悪いと「リスクを取るな!」と叱られる(汗)
◆運用環境が良いと「もっとリスクを取れ!」とやはり叱られる(大汗)
◆優秀な専門家を揃えれば何とかなると思っているおめでたい有識者がいる
◆資産規模が巨額過ぎると機動的な運用は困難
◆さりとて小規模に分割しても余計な手数料がかかるだけ
◆国債を保有していれば安全というわけではない(インフレ等のリスク)


とりわけ、「資産規模が巨額過ぎると機動的な運用は困難」という点は、資産運用業界と世間一般とのギャップが最も大きいポイントである。GPIFが赤字を出した時にしか大騒ぎしない連中は、せめて本記事に目を通した上でものを言わないと、とんだ恥を晒すことになるので要注意。
それにしても、惜しむらくは本記事が未だ(8月19日22時現在)asahi.comに掲載されていないこと。こうした良質な記事こそ広く世に問うべきであるのに、理解に苦しむ。


<参考書籍>
The企業年金BLOG(2006/3/16): 「年金2008年問題」
年金2008年問題年金2008年問題―市場を歪める巨大資金
玉木 伸介

日本経済新聞社 2004-08
売り上げランキング : 254,568
おすすめ平均


The企業年金BLOG(2008/1/15): 「敗者のゲーム」
敗者のゲーム(新版)敗者のゲーム(新版) なぜ資産運用に勝てないのか
チャールズ・エリス

日本経済新聞社 2003-12-04
売り上げランキング : 4,073
おすすめ平均


<関連エントリ>
The企業年金BLOG(2008/7/7): 成績不振を逆手にSWF阻止!?
The企業年金BLOG(2008/5/29): プロは「雇う」ものではなく「委託」するもの
The企業年金BLOG(2007/8/1): これぞ分散投資の威力!?
  運用益か、安定か 年金の積立金140兆円 (記事全文)



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2008年08月11日

「分割受取」が最新トレンドだって!?

知ってるようで知らない退職金の最新事情とは? (R25.jp)
最近、株主総会で役員退職金が廃止される企業が増えているというニュースをしばしば見かける。もしかして僕らの退職金もそのうちなくなったりして…なんて、ちょっと不安になり、退職金の現状を調べてみた。(中略)
(『R25』 2008/7/10 第199号)

R25のようなフリーペーパーで退職金が話題に上るとは珍しかったので目を通してみたのだが、このインタビューに答えている大学教授のコメントがどうにも的外れでいただけない。
(前略)「従業員の退職金は、企業が退職金制度を設けていれば、懲戒免職のとき以外、基本的には支払われます。しかし退職金制度の規定は全般的に見直される傾向にあり、従業員の退職金制度も、退職時にまとめて"一時退職金"として受け取るか、退職後に"企業年金"として分割で受け取るか、選択できる会社が増えています」(東京大学社会科学研究所・仁田道夫教授)(後略)
(上記記事より抜粋、太字強調は当BLOG管理人による。)

仁田教授は「企業年金として分割受取を選択できる企業が増えている」ことがあたかも最新のトレンドであるかの如く語っているが、これは見方が微妙というか一面的ではないか。2000年に入って以降は、代行返上や適年移行の荒波を受けて企業年金はむしろ解散・廃止がクローズアップされており、分割受取の選択肢は増えているどころかむしろ収縮しているように感じるのだが。それとも、退職給与引当金制度の廃止により一時金原資を企業年金制度に移行していることを指摘しているのだろうか。でもそれは選択肢(受取方法)の拡大がそもそもの目的ではない筈。ともあれ、このコラムには違和感を覚えた次第。

なお、仁田教授のご芳名をググってみると、どうやら労使関係・労務管理が本来の専攻らしい。企業年金と隣接する学問領域ではあるが、聞きかじりの知識でモノを語ることには慎重でありたいものだ(汗)。



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2008年08月08日

「年金数理」改訂版

協会指定テキスト かつての定番

actuary_nenkin-suri.jpg年金数理(改訂版)

(社)日本アクチュアリー会 1995-06

ご存じアクチュアリー試験の1次試験科目「年金数理」の指定教科書。無味乾燥な記述や、前回の改定から10年以上経過していることなどが嫌気されてか、テキストとしての評判はいまひとつ。現在では「年金数理概論」(朝倉書店)「保険の数理」(損保総研)の後塵を排している感はあるが、かつては年金数理を学ぶには本書しかなかった。とはいえ、指定教科書だけあって、試験問題では本書の記述から原文ママで引用されることも少なくない。そのため、現在でも受験生としてはチェックしておかざるを得ない侮れない一冊。

※新旧対照表はコチラ(←pdfファイル)


<関連エントリ>
The企業年金BLOG(2008/4/25): 「保険の数理」
The企業年金BLOG(2006/10/17): 「年金数理概論」



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2008年08月03日

「企業年金 資産運用の基礎」第3版

年金資産運用の入門書 記述が洗練

shisanunyokiso2企業年金 資産運用の基礎(第3版)

企業年金連合会 2008-06

企業年金の資産運用の入門書として定評のあった「厚生年金基金 資産運用の基礎」の5年半ぶりの改訂版。前版に比べると、章立てが全般的にスッキリし記述が洗練されたほか、「コーポレート・ガバナンス」「オルタナティブ投資」などここ5年間で新たに出てきたトピックも収録。年金資産運用について、基礎的なトピックは一通り網羅している。



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