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原著はNicholas Barrの「The Welfare State As Piggy Bank: Information, Risk, Uncertainty, and the Role of the State」で、直訳すると「貯金箱としての福祉国家:情報・リスク・不確実性および国家の役割」である。著者は、福祉国家の機能を以下の2つに分けている。
・富裕層から貧困層への再分配 (ロビン・フッド機能)
・一個人のライフサイクル内での再分配 (貯金箱機能)
前者は社会保障制度の機能として広く認知されているところだが、本書の最大の特徴は、後者の貯金箱機能の重要性を強調している点にある。貯金箱機能を有する他の手段としては貯蓄や民間保険があるものの、貯蓄は「どの程度貯めるべきか」が不明瞭であり、また民間保険は情報の不完全性から生じる弊害(逆選択、モラル・ハザードetc)ゆえに、それぞれ効率性を欠く。公的社会保障制度は、情報の不完全性、リスク、不確実性(計測不可能なリスク)を克服する最も効率的な手段であり、所得再分配機能だけでなく経済的効率性の観点からも公的社会保障制度の存在は肯定される──というのが本書の主張である。
また各章においても、失業保険、医療保険および年金について「情報の経済学」の視点から綿密な考察が重ねられており、社会保障の経済的効率性を論じる上で示唆溢れる内容となっている。本書を読めば、日本の経済学者の一知半解な改革論よりも遥かに深みのある考察を体感できること請け合い。なお原著では「教育」「旧共産主義国家の体制移行」に関する章もあったが、邦訳版では割愛されている。
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