2010年02月25日

「福祉の経済学―21世紀の年金・医療・失業・介護」

公的社会保障制度の経済的効率性の高さを説く意欲作

福祉の経済学―21世紀の年金・医療・失業・介護福祉の経済学―21世紀の年金・医療・失業・介護
Nicholas Barr

光生館 2007-03
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原著はNicholas Barrの「The Welfare State As Piggy Bank: Information, Risk, Uncertainty, and the Role of the State」で、直訳すると「貯金箱としての福祉国家:情報・リスク・不確実性および国家の役割」である。著者は、福祉国家の機能を以下の2つに分けている。
  ・富裕層から貧困層への再分配 (ロビン・フッド機能)
  ・一個人のライフサイクル内での再分配 (貯金箱機能)
前者は社会保障制度の機能として広く認知されているところだが、本書の最大の特徴は、後者の貯金箱機能の重要性を強調している点にある。貯金箱機能を有する他の手段としては貯蓄や民間保険があるものの、貯蓄は「どの程度貯めるべきか」が不明瞭であり、また民間保険は情報の不完全性から生じる弊害(逆選択、モラル・ハザードetc)ゆえに、それぞれ効率性を欠く。公的社会保障制度は、情報の不完全性、リスク、不確実性(計測不可能なリスク)を克服する最も効率的な手段であり、所得再分配機能だけでなく経済的効率性の観点からも公的社会保障制度の存在は肯定される──というのが本書の主張である。
また各章においても、失業保険、医療保険および年金について「情報の経済学」の視点から綿密な考察が重ねられており、社会保障の経済的効率性を論じる上で示唆溢れる内容となっている。本書を読めば、日本の経済学者の一知半解な改革論よりも遥かに深みのある考察を体感できること請け合い。なお原著では「教育」「旧共産主義国家の体制移行」に関する章もあったが、邦訳版では割愛されている。


<関連エントリ>
The企業年金BLOG(2008/12/5): 公的年金にまつわる10の神話
The企業年金BLOG(2009/11/2): 積立方式の難しさを物語るOECDのレポート
The企業年金BLOG(2010/2/17): 週刊ダイヤモンドの年金特集 〜暴論と正論のカオス〜



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2010年02月17日

週刊ダイヤモンドの年金特集 〜暴論と正論のカオス〜

先日当BLOGで、週刊ダイヤモンド(2010年1月23日号)における鈴木亘学習院大学教授の反論のお粗末ぶりを取り上げたところ、なんと今週号の週刊ダイヤモンド(2010年2月20日号)が「年金の大誤解」という特集であった。ほほう、今度は週刊東洋経済(2009年10月31日号)に対してきちんと理詰めで反論をしているのかと思いきや・・・

何この暴論と正論のカオス(汗)

・・・誤解の無きよう始めに申し上げておくが、当BLOG管理人も現行の年金制度に全く問題が無いとは思わない。そういう意味では、ダイヤモンド誌や経済学者が抱く問題意識あるいは危機意識は真っ当であるし、賛同する部分も少なくない。しかし彼らの難点は、現行制度の仕組みや歴史をろくに調べもせず、特段問題のない事項まで針小棒大に問題視することである(汗)。

さて今回のダイヤモンド誌だが、個人的には正論3:暴論7といった感じ。正論としては、「マクロ経済スライドを発動すべき(基礎年金除く)」「経済前提(特に想定運用利回り)の見積りが甘過ぎ」という指摘は至極ご尤も。また、Part4など年金に定評のある宮城社労士が手がけたトピックは安心して読める。しかし全般的には、前回の鈴木教授の寄稿と同様、今回の特集も鈴木教授(および経済学者)による持論のオウム返し役所・官僚の陰謀論に終始する始末。
先ほど「正論3:暴論7」と評したが、これは、本特集を監修した(と思われる)鈴木亘教授が旗色の悪い持論を引っ込めたことによる効果が大きい。例えば、「積立方式に移行して世代間格差を解消すべき」という当初の持論が「積立方式や税方式に移行しても世代間格差が無くならない」と指摘されると、「ゼロにならなくても格差を縮小することが大事だ」と微妙にトーンを変えてくる。また、「第一号被保険者の未納の増加は破綻に繋がる」との持論が「未納者には年金が給付されないから財政上の影響は軽微」と論破されると、今度は「無年金者の増加に繋がるから問題だ」と矛先を変える始末(汗)。結局、東洋経済誌の指摘には反論どころか意図的に逃げている感すら漂う。

今回、鈴木教授がおそらく最も力を入れたのは、52ページの「経済学者 年金制度に関する共同提言」だろう。鈴木教授が大量動員した師匠・研究仲間・かつての上司etcのコメントを以って「鈴木・西沢コンビの改革案への賛同多数!」(苦笑)とアピールしたいのだろうが、各論者のコメントはいずれも各論レベルの指摘(これがまた玉石混合で・・・汗)に留まっており、改革案全体の援護射撃には必ずしもなっていないのが滑稽極まりない(汗)。部分最適が全体最適に繋がるとは限らない好例ですなコリャ。

他にもツッコミどころ満載な特集だが、とりあえずこの辺で打ち止めとさせていただく。興味のある向きは、両雑誌を比較検証することを強くオススメしたい。その上で、是非自分の頭で考えて判断いただきたい。少なくとも、一方のみの見解を妄信して対論には耳すら貸そうとしない城繁幸氏のような姿勢は論外。これまでは雇用問題を斬新な切り口で語る御仁だと思っていたが、どうやら極論だけが売りの世俗評論家でしかないようだ。年金問題を語る資格も能力もありはしない。


<関連エントリ>
The企業年金BLOG(2010/2/9): 年金論争を一層堕落させる鈴木亘教授の反論
The企業年金BLOG(2009/10/27): 「週刊東洋経済」2009年10月31日号
The企業年金BLOG(2009/3/5): 「だまされないための年金・医療・介護入門」


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2010年02月13日

公的年金の資産運用を語る前にコレを読め

よくあるご質問 (GPIF:年金積立金管理運用独立行政法人)
年金積立金の管理運用に関してお問い合わせの多い質問について、以下のとおり回答をとりまとめましたのでご覧ください。

問1 年金積立金とはどのようなものですか。
問2 管理運用法人は、どの様な役割を担っているのですか。
問3 年金積立金の運用は、どのような考え方で行っているのですか。
問4 年金積立金はどのように運用しているのですか。
問5 運用実績はどのような状況ですか。
問6 運用結果は、年金の保険料や給付にどのように影響するのですか。
問7 なぜ株式に投資するのですか。もっと安全に運用すべきではないですか。
問8 もっと収益の得られる積極的な運用をすべきではないですか。
問9 海外の公的年金の運用状況はどのようになっていますか。
問10 管理運用法人は自ら運用を行っているのですか。専門家に任すべきではないですか。

1年前(2009年2月)にいつの間にか開設されたコーナーだが、公的年金の資産運用に関する疑問とその回答が簡潔にまとめられており、回答への賛否はともかくとして良質なFAQである。公的年金の資産運用については、政治家(大臣クラスですら)著名経済ジャーナリスト(苦笑)ですら誤解・偏見でモノを語る輩が多いだけに、まずは基本的な現状認識から始めていただきたいものだ。そういえば、過去には「公的年金積立金の半分が不良債権と化している」と著作で予見したものの見事に外したヘッポコ政治家もいたっけか(汗)。なお、GPIFについてはwikipediaの記事も公正な視点で書かれており秀逸。

ところで、同コーナーには、海外の公的年金基金の2008年度運用実績も併せて掲載されている。2008年度の海外勢のやられっぷりを見るにつけ、つくづくGPIFへの風当たりの強さは不当であるとの同情を禁じえない(汗)。もっとも、比較対象の一つとして挙げられているCalPERS(カリフォルニア州職員退職年金基金)は、公的年金ではなく公務員の職域年金である。日本で言うなら地共済(地方公務員共済組合連合会)に相当する機関なので、比較対象としては相応しくないように思う。

2008年度運用実績 海外の公的年金基金


<関連エントリ>
The企業年金BLOG(2008/8/19): 公的年金の資産運用に関する論点整理
The企業年金BLOG(2008/5/29): プロは「雇う」ものではなく「委託」するもの
The企業年金BLOG(2007/12/9): 赤字の時だけ大騒ぎ2
The企業年金BLOG(2006/9/6): 赤字の時だけ大騒ぎ



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2010年02月09日

年金論争を一層堕落させる鈴木亘教授の反論

先日当BLOGでも取り上げた「週刊東洋経済2009年10月31日号」において名指しで批判されたとして、鈴木亘学習院大学教授が自身のBLOGおよび「週刊ダイヤモンド2010年1月23日号」に反論を寄せたとの事。当BLOG管理人も遅れ馳せながら鈴木氏の記事を拝見したのだが・・・はっきり言ってお粗末の一言(汗)。
詳細は鈴木教授の記事あるいはBLOG(その1その2その3)を見れば一目瞭然だが、結局、鈴木教授はこれまでの自説を繰り返すのみで、東洋経済から指摘された疑問点には一切触れず(例:積立方式に移行しても世代間格差は縮小しないetc)。そして、文中の随所で「官僚の詭弁」「厚労省の省益保護」「御用雑誌」だのと議論の本筋とは無縁なレッテル貼りに終始する始末。

例えば、「未納の増加は年金財政に影響を与えない」との論に対し鈴木教授は「未納者・無年金者を排除・放置して良いのか」と返しているが、そんなことは言わずもがな3大トピック(by権丈教授)だっつーの。東洋経済の記事でも「未納者・無年金者は他の手法で救済すべき」と既に論じており、この反論は的外れというか論理のすり替えも甚だしい。素人目に見ても、無年金者が問題だというスタンスは東洋経済も鈴木教授も一致しており、あとは無年金者対策をどうするかが課題となる。これに対して、東洋経済は「現行制度の枠内での対策」、鈴木教授は「目的消費税化」をそれぞれ掲げており、鈴木教授はここで税方式化の優位性を理詰めで説明すべきところなのだが、現行制度内でのやりくりは全て役所のプロパガンダとばかりに一刀両断し自説の正当性を唱えるだけでは、読者は何の示唆も得られない(汗)。
更にBLOGの方では「厚労省のシミュレーションはブラックボックス」とまで断言している。そんな事を言い出したら、オマエのこれまでの実証論文は完全に客観的なのか? という話になるのだが(汗)。

もちろん、現行の公的年金制度に全く問題がないとは思わない。鈴木教授の危機意識には仕事柄賛同する部分も少なくないし、「予定運用利回り4.1%の不可解」「公的年金債務の把握の重要性」など、至極真っ当な指摘も幾つかある。とくに後者は、賦課方式であっても何らかの形で年金財政を検証することの必要性は当BLOG管理人も大いに賛同するところ。しかし、全体的には結論ありきの我田引水な印象が強く、もっと理詰めの反論を期待していただけに甚だ残念。
この論争、東洋経済サイドが鈴木教授の反論の掲載を断ったことから、当初は「マスゴミの横暴」への反発から鈴木教授支持が多かったものの、内容的にはもはや勝負あったか(汗)。まあ、官僚の「詭弁年金論」に注意が必要なのと同様、経済学者の「詭弁年金改革論」にも騙されてはいけない、というのが当BLOGの結論である。

<関連エントリ>
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2010年02月05日

「新年金財政シリーズ 企業年金の年金数理」

新シリーズの中核を成す一冊

企業年金の年金数理新年金財政シリーズ 「企業年金の年金数理」

企業年金連合会 2009-11

年金数理にまつわるあらゆるトピックを扱った年金財政シリーズだが、刊行元の企業年金連合会では、昨年から「新年金財政シリーズ」に再編しつつある。
本書は、年金数理とりわけ掛金計算(財政方式・PSL償却方法・基礎率)および最低積立基準額の算定に特化した内容で、旧シリーズでいえば第3巻「財政方式」、第4巻「掛金計算の実際」および第5巻「基礎率の変更と年金財政」を一冊にまとめた様相。新シリーズの中では導入編あるいは入門編的な位置付けなのだろうが、入門書と称するにはやや敷居が高いかも(記述は丁寧だが)。入門書としては、旧シリーズ第1巻「年金財政入門」の方を推したい。

それにしても、タイトルの「企業年金年金数理」という不自然な表記は何とかならなかったものか(汗)。「企業年金の数理」あるいは「企業年金数理」という表記の方がスマートだと個人的には思うのだが。



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2010年02月01日

「年金と経済」

年金系学術誌の最高峰!?

年金と経済年金と経済

年金シニアプラン総合研究機構
(季刊)

創刊から四半世紀以上の歴史を誇る、年金系学術誌の老舗にして最高峰。学者・官僚・実務家という産官学の執筆陣が名を連ねるスタイルは創刊当時から変わらず。論説のクオリティの高さは業界随一で、年金制度を研究する研究者・大学院生ならば必ず押さえておくべき文献の一つ。
本誌の創刊時のタイトルは『季刊 年金と雇用』(英題:Aging and work)だったが、雇用とある割にはもっぱら年金資金運用の分野に強みを発揮していた(汗)。2001年12月の現タイトル(英題:Aging and pension investment)へのリニューアルにより、ようやく看板に偽り無しとなった感がある。なお、雑誌名だけでなく、刊行元の団体名称も「年金制度研究開発基金」→「年金総合研究センター」→「年金シニアプラン総合研究機構」と変遷を辿っている。



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