2010年04月30日

餅は餅屋・・・山崎元氏の場合

山崎元氏といえば、理知的だが歯に衣着せぬ物言いで資産運用業界に名を馳せている御仁。最近では資産運用だけでなくワイドショーのコメンテーターをこなすなどマルトタレント的な地位に居るが、最近たまたま、氏のトホホな論説流石な論説を同時に目にした次第。


企業年金、次の一手は店じまい! (DIAMOND online)
(前略)筆者は、現在が、DBの企業年金の店じまいに取りかかる絶好のタイミングではないかと考えている。相場が絡むことなので保証は出来ないが、今から作業に取りかかるくらいがちょうどいいのではないか、と思っている。(中略)経営者にとっても、株主にとっても、DBの企業年金は邪魔な存在なのだ。ならば、金融危機の底から株価が回復しつつある今の時期に手を打つことにするのがいいのではないだろうか。これまでもそうだったように、将来はアテにならない。
(2010/4/28「山崎元のマルチスコープ」第128回)

ハイまたも出ました、山崎元氏による企業年金無要論。そりゃあ企業年金を単なる資産運用ファンドか労務コストと捉えるならばそうした見方もなくはないが、現実はそう単純ではない。企業は、企業年金が従業員のインセンティブを高めると考えるならば企業年金を続けるし、そうでなければとっとと制度を解散する、それだけの話。
また、「普通株(企業)に投資する積もりが、投資信託(企業年金)をセット販売されるのでは、投資家は迷惑」との論にしても、投資家として「企業年金は邪魔だ」というスタンスを取るのならば、企業年金の無い企業の銘柄を選択すれば良いだけのこと。投資家には銘柄選択の自由があるのと同様、企業にも企業年金を採用するか否かを選択する自由がある。

<関連エントリ>
The企業年金BLOG(2008/2/7): 山崎元氏の「企業年金無用論」に釣られてみる



正しい投資教育をいつ誰がやるか (DIAMOND online)
(前略)小・中・高それぞれの学校で、算数ないし数学の時間に、おカネを題材にした問題を扱うようにすればいい。人材は、算数・数学の教師が過不足なくピッタリだ。(中略)算数・数学の授業で損得の計算方法を徹底的に学んでおけば、投資家としての判断はできる。教科書、副読本に金融を例にとった問題を必ず載せて、入試でも出題されるようになると、皆勉強するだろう。
(2010/4/26「山崎元のマネー経済の歩き方」第126回)

一方こちらは、投資教育に関する考察。義務教育等における金融教育というと、カリキュラム(何を教えるか)講師(誰が教えるか)の二点が課題として常につきまとう。カリキュラムも講師も、作り手あるいは担い手によって恣意的な思想が入りかねない危険性を孕んでいる。
これらの課題に対して山崎氏は、カリキュラムは「算数・数学の時間に計算方法を学ばせる」、講師は「数学教師の活用」を提唱している。なるほど、リターン・リスクの計算などは高校数学までの範疇でほぼカバーできる内容だし、計算方法の伝授なら数学教師という専門家が大勢いる。いずれも既存のインフラを有効活用するとともに、資産運用業界からの恣意性を排除できる点が秀逸。この発想には率直に恐れ入った。やはり資産運用分野においては一味違う考察を見せてくれる。

<関連エントリ>
The企業年金BLOG(2006/10/26): 「知っておきたい証券投資の基礎知識」
The企業年金BLOG(2006/6/24): 「年金運用の実際知識」
The企業年金BLOG(2006/6/22): 「ファンドマネジメント」






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2010年04月27日

最近の日経新聞の企業年金記事の稚拙さを嗤う

4月から畑違いの部署に異動した関係で、企業年金に関する報道をしばらくチェキラする暇がなかった。最近になって、日経新聞の企業年金記事が酷いとの噂を耳にしたので、ようやくここ一ヶ月の報道を遡ってみたのだが・・・うん、これはひどい(苦笑)。


厚生年金基金 給付額、収入超す勢い (nikkei.com)
08年度 比率90%超 積立金4割が崩す
厚生年金基金の「高齢化」が進んでいる。2008年度は年金を受け取る人が2年連続で増える一方、保険料(掛金)を払う加入者数は11年連続で減った。その結果、収入に対する給付額の割合は過去最高の92.6%となった。全体の約4割の基金では100%を超え、積立金を取り崩して給付している。団塊世代の年金受給が本格化しているため、09年度は全体でも100%を突破する公算が大きい。基金の運営は一段と厳しくなりそうだ。
(2010/3/28 日経朝刊 1面)

事前積立方式を旨とする企業年金制度は、制度が成熟化して成熟度が高くなっても、「給付=掛金+運用収益」が成り立っていれば、財政運営上は特段の問題はない。これは給付建て(DB)制度にも掛金建て(DC)制度にも共通する普遍の原則(収支相等の原則)である。給付費が掛金収入を超えたからといって、年金制度が即座に倒壊するものではない。そのために掛金を事前積立するわけだし。
また、本記事では金額ベース成熟度(=給付費÷掛金収入)を指標としているが、日本の企業年金の給付は一時金が主流であり、一時金での受給が増えると金額ベース成熟度は高ブレする傾向にあることに留意する必要がある。



【底流】OB年金減額、解け始めた封印 (nikkei.com)
NTT裁判決着が転機に?
事実上の国の支援の下で再建を目指している日本航空の企業年金について、厚生労働省が受給者(OB)の減額を認可してほぼ3週間。年金債務負担に苦しむ企業関係者の間に「OB年金の減額申請が認められやすくなるのでは」との観測が強まってきた。
(2010/4/10 日経朝刊 5面)

何とも我田引水な主張である(汗)。日本航空の場合は、実質破綻状態だったが故のいわばレアケース。NTTが厚労省を訴えている裁判にしても、「止むを得ないほどの経営悪化はない」として東京地裁で敗訴(2007年10月19日)、東京高裁もこの判断を支持して控訴を棄却(2008年7月9日)している。現実は希望的観測よりも苦し。

<関連エントリ>
The企業年金BLOG(2007/10/24): 規制が嫌なら税制優遇を返上すればぁ?



厚年基金 代行返上が増加 (nikkei.com)
昨年度7件 運用難背景に
企業が国から預かって運用している公的年金を返還する「代行返上」が増えている。2009年度に代行返上を実施した厚生年金基金は前年度よりも2基金多い7基金。制度ができた02年度から減少が続いていたが、増加に転じた。運用難と業績低迷で重荷に感じる企業は多く、10年度はさらに増える見通しだ。
(2010/4/19 日経朝刊 3面)

将来返上と過去返上の違いすら踏まえていない点も痛々しいが(02年度から開始とあるのでおそらく将来返上だと思われる)、代行返上は2002〜04年で既にピークを過ぎておりたった2件増えたくらいで見出しを打つのは大げさ(汗)。また記事では、国への返還額の算定に用いる利率が2010年の(マイナス6.83%)から来年はプラス7%を超える可能性があることから「今年中の駆け込み返上が増える」かの如く喧伝しているが、これらの利率は一律に適用されるものではなく、暦年に対応した利率が各々用いられるため、適用利率が変わったからといって返還額が急激に増減することはない。
まあ、代行返上を煽るのは勝手だが、だったらまずは日本経済新聞厚生年金基金をとっとと代行返上すべきであろう。

<関連エントリ>
The企業年金BLOG(2009/8/31): 08年度公的年金決算からみる代行返上・離婚分割の動向



企業の年金費用 縮小 (nikkei.com)
株上昇、利回り改善
主要企業の年金資産の運用利回りが改善している。株式相場の上昇を受け、三井化学は2010年3月期に約23%の運用利回りを確保。前の期の大幅なマイナスからプラスに転じる企業が目立つ。運用の好転で企業の年金積み立て不足は縮小する。東芝の年金費用が年30億円減るなど今期の業績回復を下支えする。
(中略)
株高で年金財政の悪化に歯止めがかかったが、年金の積立不足は依然高水準。国際会計基準への移行などもにらみ企業年金制度を変更する動きは今後も続きそうだ。
(2010/4/24 日経朝刊 1面)

最後の記事は、2009年度の企業年金の運用利回りが改善したことを伝えるもので、内容そのものは至って普通。しかし、最後の一文に注目すると、結局、資産運用が良好だろうが不調だろうが企業年金制度を変更する動きは止まらないとする結論は一緒(汗)。ここでいう「企業年金制度の変更」とは、日経新聞的にはもちろん確定拠出年金(日経新聞的には「日本版401k」)への変更を意味するのだろう。
まあ、確定拠出年金への移行を煽るのは勝手だが、だったらまずは日本経済新聞厚生年金基金をとっとと確定拠出年金に移行すべきであろう。

<関連エントリ>
The企業年金BLOG(2007/8/8): 確定拠出年金は隗より始めよ!?



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2010年04月24日

保守的であることと現実的であることは別問題

厚生年金積立金が枯渇し、年金財政が破綻するこれだけの理由 (DIAMOND online)
厚生年金の将来の財政状況は、「財政検証」として推計されている。その最新版は、2009年の2月に発表されたものだ。厚生年金についての「基本ケース」の結果は、【図表1】に示すとおりである。
(中略)
しかし、この数字は、一定の仮定に基づいて計算されたものである。「今後50年以上の期間にわたって積立金が増え続ける」という結果は、経済的な前提条件に強く依存しているのである。それが満たされなければ、結果は大きく変わる。
(2010/4/17 「野口悠紀雄 未曾有の経済危機を読む」第67回)

野口悠紀雄氏といえば、『「超」整理法』シリーズでもお馴染みの高名な経済学者。氏は年金制度についてもこれまで何度もコメントを寄せているものの、残念ながら的外れなものが多い(汗)。
上記の記事にしても、要約すると「賃金上昇率-0.5%・運用益0%で試算すれば、2030年には積立金が枯渇する」というだけの内容。そんなの前提条件を変えれば何とでも言えるではないか。氏は以前にも「運用利回り4.1%は虚妄」と主張していたが、運用利回りを0%とする仮定もまた現実的だとは到底思えない。まあ、「悲観論は論者を知的に見せる」という格言があるものの、前提条件が保守的であることと現実的かつ精緻であることとは別問題である。
専攻分野においては厳密な論理と事実に基づく論文を書く能力がある学者にして、専門外の分野となるとかくも杜撰なのかと思うと、高名な学者だからといってその言を鵜呑みにする事の危険性を改めて認識した次第(汗)。



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2010年04月17日

「りそな企業年金ノート」刷新される

企業年金の受託金融機関が発行している年金基金向けニュースレターの老舗として好評を博している「りそな企業年金ノート」が、今月号から装いも新たに刷新された。従来は一つのテーマのみを掘り下げて解説する構成だったが、今月号からは、本題に加えて「りそなコラム」「気になる年金用語」などの新トピックが新たに加わり、内容に厚みが増した感がある。今後の展開に期待したい。


<関連エントリ>
The企業年金BLOG(2008/10/23): 「りそな企業年金ノート」



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2010年04月09日

「新年金財政シリーズ 企業年金の財政運営」第2版

財政運営の教科書 改訂成果は一長一短!?

企業年金の財政運営(第2版)新年金財政シリーズ 「企業年金の財政運営」(第2版)

企業年金連合会 2010-03

年金数理にまつわるあらゆるトピックを扱った年金財政シリーズだが、刊行元の企業年金連合会では、昨年から「新年金財政シリーズ」に再編しつつある。
本書は、厚生年金基金および確定給付企業年金の財政運営財政決算財政計算など)を取り扱った「企業年金の財政運営」の改訂版。前版が当時の制度改正の解説書の域を出なかったのに対し、今回の第2版は、関連項目を教科書的に網羅することに主眼が置かれているほか、記述も分かり易く整理されており、完成度は明らかに増している。読破するのにはやや骨が折れるものの、財政運営についてここまで詳細に解説した類書は他にない。

ただし、財政運営に係る根拠条文を政省令レベルまで網羅するなど前版で好評を博していた巻末参考資料が削除されたのは改悪と言わざるを得ない。また、厚生年金基金と確定給付企業年金とで記述の重複が多いという欠点も解消されたとは言い難い。前版から100ページ以上も分量を増したのだから、「厚生年金基金編」と「確定給付企業年金編」とに分冊化するなど構成を見直すべきではないだろうか。もちろん巻末資料の再収録も望みたい。


<関連エントリ>
The企業年金BLOG(2008/6/29): 「年金財政シリーズ14 企業年金の財政運営」



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2010年04月06日

「はじめて学ぶリスクと保険」第3版

保険論+リスクマネジメント論の定番教科書

はじめて学ぶリスクと保険 第3版はじめて学ぶリスクと保険 第3版 (有斐閣ブックス)
下和田 功

有斐閣 2010-03
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リスクマネジメントという言葉が脚光を浴びるようになって久しい。近年は金融工学や会計学といった分野からの進出が目立っているが、リスクマネジメントを最も古くから探求してきたのは紛れもなく保険学であろう。本書は、リスクマネジメント研究に精通する保険学者・経済学者の手による、保険論とリスクマネジメント論のコラボレーションを試みた意欲作である。前半ではリスクマネジメントの全体像を、後半ではリスク移転手段の一つである生命保険・損害保険を取り扱っており、まさにリスクから出発する保険論を地で行く構成になっている。
なお、タイトルには「はじめて学ぶ」とあるものの、執筆者が複数にわたるせいか記述に濃淡がみられる(特に第4部「社会保障」は記述が冗長・・・汗)ほか、文体も硬いため、お世辞にも分かり易いとは言い難い。むしろ、中級者以上がリスクマネジメント論を「はじめて学ぶ」のに最適という意味ではないかと思われる(汗)。とはいえ、現在では保険・リスクマネジメント論の定番教科書としての地位を確固たるものとしており、今回の第3版では、保険法の制定や、前版以降の医療制度改正(後期高齢者制度の導入など)に関する記述が手当てされている。


<関連エントリ>
The企業年金BLOG(2009/8/1): 「物語で読み解く リスクと保険入門」



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