2010年11月29日

完全積立方式 ─ 「利息だけで生活」を具現化

完全積立方式 (complete funding method)
  準備時期 : 加入前
  準備形態 : 一括払い(制度開始までに全額用意)
  準備方法 : 運用収益のみ

完全積立方式という言葉は、「完全な積立」という語感が災いしてか、賦課方式の反対概念として事前積立方式全般を指す意味で使われることが多い。しかし、これは大きな誤りである。
年金数理における完全積立方式とは、「年金給付に要する費用を事前に全額用意し、給付を運用収益のみで賄う」という仕組みである。例えるなら、庶民なら誰しも一度は考える「宝くじで一等前後賞が当たれば一生利息だけで食って行ける!」という妄想を具現化した方式である。かつて松下幸之助が提唱した無税国家論もこの考え方に近い。完全積立方式では、給付を積立金の利息のみで賄うため、掛金負担は一切要しない。これは、運用収益を当てにせず掛金のみで給付を賄う賦課方式とは対極に位置する財政方式である。

しかし、完全積立方式を実施するためには、利息だけで給付が賄えるだけの莫大な積立金を用意しなければならない。例えば、現在の日本の公的年金の年間給付総額(約45兆円)を全額運用収益だけで賄おうとすると、以下の規模の積立金が必要となり、いずれも現在の日本の公的年金積立金の規模(約200兆円)を遥かに凌駕する。また、運用利回りの見込みによって積立金の規模が大きく異なっているが、これは、資産運用の不振による運用収益の低下が即座に給付に影響するという完全積立方式の特性を如実に物語っている。

  ・年5%で運用する場合:  900兆円 (=45兆円/0.05)
  ・年3%で運用する場合:1,500兆円 (=45兆円/0.03)
  ・年1%で運用する場合:4,500兆円 (=45兆円/0.01)


以上の点から、完全積立方式は年金数理上の概念としてはあり得るものの、資金準備面および資産運用面でのハードルが高いため、実際に採用される可能性は極めて薄い。


<関連エントリ>
The企業年金BLOG(2010/11/24): 年金制度における財政方式とは(総論)
The企業年金BLOG(2010/11/27): 賦課方式 ─ 運用収益を当てにしない財政方式
The企業年金BLOG(2010/12/6): 退職時年金現価積立方式 ─ 退職金で個人年金をポンと購入
The企業年金BLOG(2010/12/9): 加入時年金現価積立方式 ─ 入社時にポンと一括払い



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2010年11月27日

賦課方式 ─ 運用収益を当てにしない財政方式

賦課方式 (pay-as-you-go method)
  準備時期 : 支払時
  準備形態 : 分割払い(給付を支払う都度)
  準備方法 : 掛金のみ

賦課方式というと、「年金給付に必要な原資を、その時の現役世代の保険料で賄う仕組み」という「世代間扶養」の考え方とともに説明されることが多い。しかし、これは一面的な見方であり、賦課方式の本質を表すものではない。
年金数理における賦課方式とは、「年金給付に要する費用を事前に積み立てることなく、給付が発生する都度、その費用を掛金のみで賄う」というある時払い(pay-as-you-go)の仕組みであり、積立金を保有しない、すなわち運用収益を当てにしないのが賦課方式の本質である。運用収益を全く見込まないため、掛金負担はあらゆる財政方式の中で最も大きいものとなる。賦課方式の説明において世代間扶養が取り沙汰されるのは、一個人のライフサイクルにおいては掛金負担時期と年金給付時期が一致しないことから、掛金負担者と年金受給者が結果として異なることによる。

企業年金においては、
  ・加入者集団の構成によっては、給付額の変動が大きくなり掛金額が安定しない
  ・掛金の払込みが滞ると、直ちに給付も滞る
  ・積立金が無い(=資金的裏付けが無い)ため、受給権の保全に問題がある

などの理由から、厚生年金基金確定給付企業年金など法令上の企業年金制度では賦課方式の採用は認められていない。しかし、税制優遇の無い非適格年金(いわゆる自社年金)においては、ごく少数ながらも賦課方式が採用されていると聞く。当BLOG管理人が聞いた例だと、国債や個別企業の株式・社債等の保有が立場上憚られる某中央銀行の企業年金では、(積立金を保有せずに済むことから)賦課方式を採用しているとの事。

一方、公的年金においては、
  ・加入者集団が大きく安定しているため、給付額も掛金額も安定する
  ・掛金負担者と年金受給者が一致しないため、所得再分配に馴染む
  ・積立金を保有しない(または小規模な)ため、インフレに強い

などの理由から、先進諸国の公的年金制度の殆どが賦課方式に近い方式で運営されている。しかし、積立金を一切保有しない完全な賦課方式はごく稀で、準備金のような形で積立金を保有する例が多い。日本においては、基礎年金は賦課方式で運営されているが、厚生年金保険は4〜5年分の給付を賄えるだけの巨額の積立金を有していることから、論者によっては「修正賦課方式」「修正積立方式」などの呼称を思い思いに用いている(これらの語句には明確な定義は存在しない)。


<関連エントリ>
The企業年金BLOG(2010/11/24): 年金制度における財政方式とは(総論)
The企業年金BLOG(2010/11/29): 完全積立方式 ─ 「利息だけで生活」を具現化
The企業年金BLOG(2010/12/6): 退職時年金現価積立方式 ─ 退職金で個人年金をポンと購入
The企業年金BLOG(2010/12/9): 加入時年金現価積立方式 ─ 入社時にポンと一括払い



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2010年11月24日

年金制度における財政方式とは(総論)

財政方式とは、年金制度から支払われる年金・一時金給付を賄うために、その財源(費用)をどのように調達・確保するかという準備計画であり、また、そのために必要な掛金をどのように定めるかという手法を意味する。
──と教科書的に解説すると何やら小難しそうに聞こえるが、要は貯蓄計画である。例えば、10年以内に1,000万円を貯蓄すると決意したとしよう。この場合、「毎月5万円ずつ貯める」「賞与が年2回出たら20万円ずつ貯める」「貯金だけでなく高利回りも狙う」といったことを大雑把ながらも計画することだろう。年金制度もこれと同様である。年金制度の場合、財政方式の違いは、主に下記3点の違いに集約される。

  準備時期 : 加入前か、加入時か、加入期間中か、退職時か、支払時か
  準備形態 : 一括払いか、分割払いか
  準備方法 : 掛金のみか、運用収益のみか、掛金と運用収益の両立か


年金の財政方式に関する議論では、賦課方式積立方式の2つが良く取り上げられる。しかし、賦課方式は数多ある財政方式のone of themに過ぎず、また、積立方式にも数多くのバリエーションがある。この両者だけで財政方式の全てを語ろうとするのは、モーツァルトとベートーヴェンの両者だけでクラシック音楽の全てを語ろうとするのと同じくらい粗雑な議論であることをまずは認識していただきたい(特に経済学者諸君!)。
当BLOGでは、次回以降、各財政方式の違いについて適宜解説していきたい。


─────────────────────────

【2010.12.5追記】
主要な財政方式の分類について以下のとおり掲載しました。


◆主要な財政方式の分類
1 非積立方式
 ・賦課方式 (pay-as-you-go method)
2 積立方式
2.1 非事前積立方式

 ・退職時年金現価積立方式 (terminal funding method)
2.2 事前積立方式
2.2.1 非平準積立方式

 ・単位積立方式(一時払積増方式) (unit credit method)
 ・加入時(年金現価)積立方式 (initial funding method)
 ・完全積立方式 (complete funding method)
2.2.2 平準積立方式 (level premium method)
2.2.2.1 閉鎖型

 ・加入年齢方式 (entry age normal cost method)
 ・個人平準保険料方式 (individual level premium method)
 ・到達年齢方式 (attained age normal cost method)
 ・(閉鎖型)総合保険料方式 (closed aggregate cost method)
2.2.2.2 開放型
 ・開放型総合保険料方式 (open aggregate cost method)
 ・開放基金方式 (open aggregate normal cost method)




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2010年11月22日

「新年金制度に関する検討会 中間まとめ」のパブコメ結果の公表

そういえば、内閣官房:国家戦略室の新年金制度に関する検討会が去る6月29日に公表した「新年金制度に関する検討会 中間まとめ」のパブリックコメントの結果が今月16日に公表されていたことに今更ながら気がついた。寄せられた意見総数は42件(団体:7件、個人:35件)との事。
内容を拝見した限りでは、寄せられた各人の意見をコピペしただけの構成の割には、募集時期(本年8月16締切)から公表まで3ヶ月も要した理由がいまいち分からなかった。まあ、新年金制度の検討に関する所管が国家戦略室から内閣官房社会保障改革担当室に移るなど、事務局の体制変更による都合も大きかったのだろう。
それにしても、寄せられた意見はまさに玉石混合。中には、「"手続"じゃなくて"手続き"だろ!」などの姑めいた指摘もあり、良くも悪くも関心の高さがうかがえる。公的年金に関心のある向きならば、是非一読してみては如何だろうか。

<参考資料>
「新年金制度に関する検討会 中間まとめ」に対する意見募集(パブリックコメント)の結果について (pdf)
新たな年金制度の基本的考え方について(中間まとめ)
内閣官房社会保障改革担当室

<関連エントリ>
The企業年金BLOG(2010/5/17): 5回目にしてようやく「実務家」のお出ましか



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2010年11月18日

アクチュアリー会の年次大会を観覧

本日は、日本アクチュアリー会2010年度年次大会を観覧した。事前に目にしたプログラムでは、パネルディスカッション「公的年金改革」に興味を抱いたが、パネリスト2名の発表がともに長引いてしまったため討論が不十分に終わったのが残念であった。むしろ、あまり関心のなかった論文発表「死亡率の変動についての一考察」プレゼンテーション「長寿リスクについて」から幾つもの示唆を得ることが出来た。
それにしても、以前当BLOGで告知した秋の年金関連イベントのうち、当BLOG管理人が実際に足を運べたのは今回のアクチュアリー大会のみであった。今春から企業年金とは縁も縁もない部署に配属された影響が甚大だったが、来月からは若干改善される予定である、フフフ(意味深)。

<関連資料>
日本アクチュアリー会 平成22年度年次大会
プログラム・資料等 (会員のみ閲覧可)

<関連エントリ>
The企業年金BLOG(2008/11/11): アクチュアリー会の年次大会でプレゼン



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2010年11月10日

積立は三角、給付は四角?

年金とりわけ個人年金の仕組みについて説明する際に、三角形と四角形からなる以下の図解が用いられるのを良く目にする。


この図解は、「加入から支給開始までは元利合計を積み立てる」「支給開始以降は毎年一定額の年金を受け取る」ことを説明するぶんには使い勝手が良いものの、フローとストックが意図的に混同されている。そのため、年金について初心者から初級者レベルに進みつつある向きとっては、却って誤解を生じさせる原因ともなる。そこで当BLOGでは、フローとストックを厳密に区分した図解を作成してみた。

まず、ストックのみに着目すると、加入から支給開始までは元利合計が積み上がるものの、支給開始以降は年金を給付するため原資が取り崩されることから、正確な図解は下記のとおりとなる。また、フローのみに着目すると、支給開始以降に毎年一定の年金が支払われるのと同様、加入から支給開始まで毎年一定の掛金(または保険料)が払い込まれることから、正確な図解は下記のとおりとなる。

<ストック>               <フロー>
 


最後に、元利合計を元本部分と利息部分とに細分化した上で、フローとストックを総括的に図示すると、下記のとおりとなる。




余談だが、保険の世界では、上記のような上記のような錯覚を逆手に取った図解が散見される。例えば、貯蓄と保険の違いを表す格言として「貯金は三角、保険は四角」というフレーズが良く用いられる。この場合、貯金を表す三角形はストックを意味しているものの、保険を表す四角形は保障額(保険金額)であって、ストックでもフローでもないことに留意する必要がある。

貯蓄は三角保険は四角




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2010年11月05日

野口悠紀雄氏の年金破綻論、しめて23打数2安打(.087)

春先に当BLOGでも取り上げた野口悠紀雄氏のしょーもない年金破綻論だが、いつの間にか連載が終了していたことに今更ながら気がついた(現在は「野口悠紀雄 人口減少の経済学」を連載中)。この一連の年金破綻論、本来は「野口悠紀雄 未曾有の経済危機を読む」という経済全般を取り扱ったコラムだったが、途中からなぜか公的年金制度批判を展開し始め、終わってみれば、全88回中23回(第65回および第67〜88回)を公的年金が占めるという力の入れようであった。

その中で、当BLOG管理人が傾聴に値すると判断した記事が2本あった。一つは、第76回「年金破綻を回避する3つの方策──支給開始年齢引き上げ、年金課税強化、在職老齢年金廃止」、もう一つは、第85回「官僚と政治家のご都合主義が生んだ、公平原則に反する在職老齢年金」である。いずれも、公的年金財政の再建のためには給付減額は避けられないが、実施するなら在職老齢年金ではなく年金課税で対処するのが望ましいとする内容である。租税の公平性・中立性にも言及するなど、本来の財政学者としての知見が垣間見える秀作である。この2本だけは是非ともお読みいただきたい。

しかし、はっきり言って上記以外の記事は読むだけ時間の無駄(汗)。このしょーもなさについては以前にも述べたので繰り返したくないが、端的に言えば「数字遊び」と「事後批判」に終始していて読むに堪えない。賃金上昇率や運用利回りの前提条件に関する指摘は、例えるなら「チーム打率.150、チーム防御率8.00なら巨人は最下位」という程度でしかない。また、予定利率5.5%の水準や財政方式(積立方式or賦課方式)云々にしても、制度が創設あるいは改定された当時の経緯や議論を無視して現在の常識のみで断定している。余談だが、かつて企業年金の予定利率が5.5%以上とされた背景には、予定利率を低く設定すると掛金が高くなるため、損金が過大算入されて税収が減ることを懸念した当時の大蔵省・国税庁の意向も当然に反映されている。5.5%とは、1960年代においてはそれくらい保守的な金利水準だったわけだが、そうした経緯等を一切考慮していないというのは、一般人ならともかく、学者でしかも元大蔵官僚としては致命的であろう。
せっかく23本もの年金記事を書いてくれた野口氏だが、打撃成績に換算すると、23打数2安打、しめて打率.087の出来であったと当BLOG管理人は推計する。野口氏には、本業の経済学・財政学の領域で骨太な議論を新連載にて展開いただきたいものだ。

<関連エントリ>
The企業年金BLOG(2010/4/24): 保守的であることと現実的であることは別問題



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