2008年08月19日

公的年金の資産運用に関する論点整理

運用益か、安定か 年金の積立金140兆円 (asahi.com)
公的年金の積立金140兆円は年金給付の貴重な財源だ。運用益が上がれば将来受け取る年金は増える。現在は国債が中心だが、「株式や海外投資を増やし、より高い収益を目指すべきだ」と、見直しを求める声が強まっている。どのような方法が望ましいのだろうか。(太田啓之)
(2008/8/19 朝日朝刊 3面)

本日の朝日新聞朝刊に掲載された上記の記事は、公的年金のみならず企業年金の資産運用を考える上でも「最低限これ位は押さえとけ」的なトピックが凝縮された良質な記事であった。主な特記事項は以下のとおり。

◆昨年度(07年度)は赤字だったが、累積ではまだ7兆円以上の黒字
◆運用環境が悪いと「リスクを取るな!」と叱られる(汗)
◆運用環境が良いと「もっとリスクを取れ!」とやはり叱られる(大汗)
◆優秀な専門家を揃えれば何とかなると思っているおめでたい有識者がいる
◆資産規模が巨額過ぎると機動的な運用は困難
◆さりとて小規模に分割しても余計な手数料がかかるだけ
◆国債を保有していれば安全というわけではない(インフレ等のリスク)


とりわけ、「資産規模が巨額過ぎると機動的な運用は困難」という点は、資産運用業界と世間一般とのギャップが最も大きいポイントである。GPIFが赤字を出した時にしか大騒ぎしない連中は、せめて本記事に目を通した上でものを言わないと、とんだ恥を晒すことになるので要注意。
それにしても、惜しむらくは本記事が未だ(8月19日22時現在)asahi.comに掲載されていないこと。こうした良質な記事こそ広く世に問うべきであるのに、理解に苦しむ。


<参考書籍>
The企業年金BLOG(2006/3/16): 「年金2008年問題」
年金2008年問題年金2008年問題―市場を歪める巨大資金
玉木 伸介

日本経済新聞社 2004-08
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The企業年金BLOG(2008/1/15): 「敗者のゲーム」
敗者のゲーム(新版)敗者のゲーム(新版) なぜ資産運用に勝てないのか
チャールズ・エリス

日本経済新聞社 2003-12-04
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<関連エントリ>
The企業年金BLOG(2008/7/7): 成績不振を逆手にSWF阻止!?
The企業年金BLOG(2008/5/29): プロは「雇う」ものではなく「委託」するもの
The企業年金BLOG(2007/8/1): これぞ分散投資の威力!?
   
運用益か、安定か 年金の積立金140兆円

公的年金の積立金140兆円は年金給付の貴重な財源だ。運用益が上がれば将来受け取る年金は増える。現在は国債が中心だが、「株式や海外投資を増やし、より高い収益を目指すべきだ」と、見直しを求める声が強まっている。どのような方法が望ましいのだろうか。(太田啓之)

◆国債重視に批判
厚生年金と国民年金の支給総額は昨年度41兆円。財源は現役世代からの保険料や国庫負担金のほか、積立金から取り崩した4.1兆円が充てられた。約1割が積立金で賄われた計算だ。
積立金の残高は計130兆円(時価ベース)と、前年度より10兆円減った。年金支給のために取り崩したほか、米国のサブプライムローン問題による世界的な株安で5.8兆円の運用損を出したためだ。
積立金の市場運用は01年度から本格的に始まった。07年度は91.3兆円を運用し、利回りはマイナス6.4%と、過去2番目の低さだった。ただ、03〜06年度は4年連続プラスで、7.4兆円の累積収益がある。
しかし、最近、マイナス要因が浮上している。09年度から基礎年金の国庫負担を3分の1強から2分の1に引き上げることが決まっているが、財源をめぐり、先送りの可能性が出ている。その場合、必要な2.3兆円は積立金を取り崩さざるを得なくなり、大きく目減りする。
積立金を運用しているのは、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)。運用方針は安全性重視で3分の2は国債などの国内債券、国内株式と外国株式にそれぞれ1割程度など。
これに対して見直しを求める声が出てきた。今年5月、経済財政諮問会議の専門調査会は、公的年金の運用改革への提言をまとめた。「制約の多い運用で、本来得られる利益が失われている」と現状を厳しく批判。GPIFについて、(1)国内債券に偏り、5年に1度しか見直さない、(2)経費削減を義務づけられ、質の高い投資専門家を雇えない、(3)積立金の規模が大きすぎて効率運用が困難と指摘した。
優秀な専門家を抱える複数のファンドに分けて成果を競えば、「同等のリスクで収益を改善できる」と主張する。メンバーの一人、安田隆二・一橋大大学院教授は「GPIFは安全性を重視しすぎ。もう少しダイナミックに運用すれば、利回り1%程度は上げられる」と話す。
厚生労働省によると、利回り目標を1ポイント上回れば、将来の年金額は8%ほど上がるという。

◆多様化、リスク減
諮問会議などは他国と比べて低い運用益を問題視する。内閣府の調べでは、02〜07年の平均利回りは、カナダ9.1%、スウェーデン6.9%、ノルウェー4.6%と、日本の4.3%を軒並み上回る。カナダ、スウェーデンは半分以上を株式に、ノルウェーやアイルランドは全資産を海外投資する。
GPIFが慎重な背景に、過去の成績不振がある。00〜02年度の利回りは3年連続のマイナス。02年度末時点で、累積6兆円の損失に達し、国会で「貴重な積立金をリスクにさらしている」と批判された。厚労省内では「損失が続けば政治問題化は避けられない」(幹部)として、現在も慎重論が根強い。
ただ、年金積立金の市場運用は、その規模の大きさゆえに難しい問題を抱える。東京証券取引所の株式時価総額約420兆円。それと比べて、積立金140兆円が、いかに大きいかが分かる。年金資金運用に詳しい総合研究開発機構の元主任研究員、玉木伸介さんは「これだけの規模だと、株式を売ればその過程で株価の水準が下がり、買えば逆に値が上がる。自らの動きが市場動向を左右し、機動的な運用は困難」と指摘する。
一方で、他国の規模は、カナダ13兆円、スウェーデン15兆円程度。244兆円の米国は「政府が市場運用すれば市場をゆがめ、民間の投資機会を奪いかねない」として、全額国債だ。
諮問会議の提言のように複数の基金に分割しても、基金の一つが売却した株を別の基金が購入するなど「全体としては保有株は変わらないのに手数料だけがかかる」という事態が起きうる。玉木さんは「分割すれば全体の運用益が上がると論理的に証明されていない」とする。
一方で「国債を保有していれば安全」というわけではない。インフレが起きれば実質的な価値が目減りする。
また、08年3月末の国債発行残高684兆円のうち、約1割の65兆円程度は年金積立金が保有している。厚労省の見通しでは、年金財源に充てるため、50年ごろから積立金を本格的に取り崩す。巨額の国債を売却し続ければ、国債の値崩れが起きたり、国債償還に必要な資金を調達するため国民に追加の税負担を求めたりする可能性もある。
こうした問題を避けるために比較的有利と考えられるのが、海外市場への長期的な投資だ。一橋大の安田教授は「アジア諸国の潜在的な成長力は日本よりも高いとみられる。経験豊かな専門家を雇い、こうした国の電力、水道、道路に投資すれば経済発展に寄与できるうえ、高い利回りも期待できる」と話す。
ただし、海外投資にはリスクが伴う。短期的な利回りは現在以上に大きなマイナスとなり、単年度で見れば「元本割れ」という事態も起きうる。舛添厚労相は「日本人には安心思想があり、(元本割れのリスクのある)有価証券には抵抗感がある」と指摘する。
これに対して、積立金の残高に当面ゆとりがある日本にとって、元本割れを恐れて国債など堅実な運用にこだわるよりも多様化した方が、長期的にはリスクを減らせるうえに、高い収益も得られる、というのが専門家の一致した見方だ。
過去の日本の実績でみても、短期的に損失が出ても長期的にはそれを上回る利益が出ている。「長い目でみる」ことに国民的な合意を得られるかどうかが、積立金の運用見直しの鍵を握りそうだ。






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posted by tonny_管理人 at 21:53 | Comment(2) | TrackBack(1)
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この記事へのコメント
新聞記事の内容&管理人様のご見解に大賛成です。
ただ、新聞社においては(特に行政活動や政治活動に関して)批判記事を前面に大きく掲載しないと新聞は売れず、ネット記事は注目されないという意識を持っていると思われる以上、今回の記事の扱いは必然の結果のような。

上記新聞制作側の意図は、制作側の意図が先か、購読者がそれを求めるのか、なかなかに難しい部分を含んでいるような気が致します。
Posted by 素人の浅知恵 at 2008年08月28日 10:12
> 素人の浅知恵さま
はじめまして。コメントありがとうございます。
仰せの構図は、「購読者」を「有権者」に置き換えると、まさに政治情勢にも当てはまりますね(汗)。
Posted by tonny_管理人 at 2008年08月28日 20:22
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