2005年12月31日

代行部分の会計処理をめぐる論争

厚生年金の代行部分「退職給付債務」 会計処理でさや当て (日経金融新聞)
厚生年金基金が国に代わって運用している厚生年金の代行部分の会計方法をめぐり、基金と会計士の間で論争が起きている。基金に給付責任のない部分は退職給付債務から除くべきだとする基金側に対し、これまでの会計ルール通りに全額を債務とするよう主張する会計士側。議論が紛糾し、年内に出るはずだった結論は来年に持ち越された。企業財務に大きな影響を与えるだけに、議論の行方に注目が集まっている。
(2005/12/26 日経金融新聞 3面)

当記事は、厚生年金基金の代行部分の会計処理をめぐり「従来通りのルールで債務を評価すべし」とする会計士サイドと「代行部分の正当な評価額である最低責任準備金で評価すべき」とする厚生年金基金サイドの間で論争が起きているというものである。

2001年3月期決算より導入された退職給付会計基準により、退職金や企業年金の積立度合いが母体企業の財務諸表に反映されるようになった。退職時に見込まれる退職給付の総額(退職給付見込額)のうち期末までに発生している分を、一定の割引率で割引計算したものを退職給付債務としている。退職給付会計基準の導入自体は「簿価から時価への移行」という時価主義の流れに沿ったものであり、異論を挟む余地は全く無い。当記事で論点になっているのは、退職給付債務のうち厚生年金基金の代行部分についてである。

代行部分の法律上の債務は、厚生年金保険法等で定められた最低責任準備金である。基金が代行返上を行う際は、この最低責任準備金相当額を返還すれば良い。ところが現行の退職会計基準では、この代行部分についても上乗せ部分(=純正な企業年金部分)と同様に割引計算することを求めている。退職給付債務の割引率には長期国債などの利回りが主に用いられるが、昨今の低金利を反映して割引率は低くなっているため、代行部分の退職給付債務は一般的に最低責任準備金よりも大きくなる。つまり、代行部分についても現在の会計基準を機械的に適用するため、返上時に支払えばよい額(最低責任準備金)を不当に超過している事になる(下図の黒塗りの部分)。

20051226_kaikei.jpg

現行基準では、低金利下では「代行部分の退職給付債務>最低責任準備金」となる一方、金利上昇局面では逆に「代行部分の退職給付債務<最低責任準備金」となる。金利変動でここまで債務がフラフラするようでは、そもそも認識方法自体に問題があると言わざるを得ない。代行部分については、最低責任準備金という明確なモノサシがある以上、素直にこれを用いるのが「現状を正確に写し出す」という会計の役割に則したものだと思うが。

ここ1・2年、代行返上により特別利益を計上する企業が相次いでいるが、これはまさに、代行部分について過大な債務認識を強いられていたものが代行返上により解除されたためであり、実際にそれだけの資金が企業に入る訳ではない。つまり代行返上益なんて見せかけに過ぎないってこと。
しかもこの会計処理には「原則は過去返上完了時に損益を計上するが、将来返上認可時点でも損益計上できることとする」という特例がある。要は、代行返上の意思表示さえすれば未実現の利益を計上してもOKつうこと。おいおい、飲み屋のツケ払いじゃないんだから!

ここまでくると、粉飾決算の片棒を担いでいるようなもの。「代行部分と私的年金とで分割管理されていない」とする会計士サイドの主張も分からぬでもないが、一方でルールの厳格化を唱えながら、もう一方では特例措置による事実上の野放し状態では説得力に欠ける。これは連結会計の全額時価評価法や税効果会計の繰延税金資産にも言える。

もっとも、基金サイドの反撃も遅きに失した感がある。単独・連合型基金(大企業が中心)の85%以上がすでに代行返上に動いており、2005年12月1日現在で残っているのは僅か145。代行返上は既に終盤局面にある。これもひとえに年金基金サイドの政治力の無さの賜物か(汗)。


<関連エントリ>
The企業年金BLOG: 代行部分の会計処理、進展見られず
 
  
厚生年金の代行部分「退職給付債務」 会計処理でさや当て

   基金:最低準備金のみに 会計士:従来通り一体扱い


厚生年金基金が国に代わって運用している厚生年金の代行部分の会計方法をめぐり、基金と会計士の間で論争が起きている。基金に給付責任のない部分は退職給付債務から除くべきだとする基金側に対し、これまでの会計ルール通りに全額を債務とするよう主張する会計士側。議論が紛糾し、年内に出るはずだった結論は来年に持ち越された。企業財務に大きな影響を与えるだけに、議論の行方に注目が集まっている。

年金法改正から
「退職給付会計を早急に見直すべき」。今月六日、こんな表現の文書が企業年金連合会のホームページに掲載された。厚生年金の代行部分について、基金の債務を限定するよう強く訴える内容だった。
発端は二〇〇四年の年金法改正。基金は代行部分について、国が運用する厚生年金本体と同じ利回りで運用した「最低責任準備金」以上の責任は負わないことが定められた。一九九九年九月時点の代行部分を元本として、毎年の厚生年金本体の運用利回りで運用したと仮定した金額が、それぞれの企業の「最低責任準備金」となる。
平均寿命が延びるなどで将来の給付額が準備金を上回った場合、不足分は国が交付金を給付して補う仕組みだ。

負担格差は2倍
これを受け、基金側は会計制度の見直しを訴え始めた。代行部分にも企業の私的年金部分と同じ利回りを当てはめ、債務としていた従来のやり方を変え、代行部分については最低責任準備金だけを債務とするよう主張。今年四月から、企業会計のルールを定める企業会計基準委員会(ASBJ)で議論が始まった。
だが会計士側の委員は見直しに否定的。最低責任準備金を超える分も従来通り債務として認識し、交付金が支給された時点で相殺する――との立場を取っており、見直しを求める年金数理人や基金の代表者と意見が対立している。
基金側が見直しを唱えるのは、債務が大きくなることで企業の財務が圧迫されるためだ。約百九十ある厚生年金基金の最低責任準備金は合計で約一兆五千億円。だが会計士側の見解に従えば、倍の三兆円前後が退職給付債務という形で企業の貸借対照表に載ることになる。

来年に持ち越し
企業年金連合会の安部泰史・数理部長は「本来責任のない債務を負うことで財務諸表がゆがむ。これが原因で債務超過になって破綻する企業が出たらどうするのか」と危惧する。だが会計士側も「一次的な支払い義務は基金にある。運用資産を代行部分と私的年金とで分割管理しているわけではないので、債務も一体とするのが当然」と譲らない。
議論は年内に決着する予定だったが双方譲らず、結論は来年に持ち越された。次回の委員会で基金や年金数理人側の委員が、新たな会計手法を考案し、提出する予定。厚年基金を持つ企業の財務に少なからぬ影響を与えるだけに、議論の行方が注目されている。

▼厚生年金の代行
公的年金である厚生年金を企業が国に代わって運用すること。代行を行っている企業年金基金を厚生年金基金と呼ぶ。私的年金である企業年金と合わせて資産規模を大きくし、運用の効率を上げるために行う。だがここ数年の運用難で多くの基金が目標利回りを達成できず、代行部分を抱えた分だけ負債が大きくなった。このため、代行部分を国に返す「代行返上」が頻発した。






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posted by tonny_管理人 at 23:54 | Comment(3) | TrackBack(1)
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この記事へのコメント
トラックバック、ありがとうございました。
Posted by ◎実務家☆☆☆ at 2006年01月02日 09:39
トラックバックいただきありがとうございました。
Posted by mts at 2006年01月05日 10:25
> ◎実務家☆☆☆さま
> mtsさま
こちらこそいきなりのTBで失礼致しました。
これを機に今後とも宜しくお願い致します。
Posted by tonny_管理人 at 2006年01月05日 17:45
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