2010年11月27日

賦課方式 ─ 運用収益を当てにしない財政方式

賦課方式 (pay-as-you-go method)
  準備時期 : 支払時
  準備形態 : 分割払い(給付を支払う都度)
  準備方法 : 掛金のみ

賦課方式というと、「年金給付に必要な原資を、その時の現役世代の保険料で賄う仕組み」という「世代間扶養」の考え方とともに説明されることが多い。しかし、これは一面的な見方であり、賦課方式の本質を表すものではない。
年金数理における賦課方式とは、「年金給付に要する費用を事前に積み立てることなく、給付が発生する都度、その費用を掛金のみで賄う」というある時払い(pay-as-you-go)の仕組みであり、積立金を保有しない、すなわち運用収益を当てにしないのが賦課方式の本質である。運用収益を全く見込まないため、掛金負担はあらゆる財政方式の中で最も大きいものとなる。賦課方式の説明において世代間扶養が取り沙汰されるのは、一個人のライフサイクルにおいては掛金負担時期と年金給付時期が一致しないことから、掛金負担者と年金受給者が結果として異なることによる。

企業年金においては、
  ・加入者集団の構成によっては、給付額の変動が大きくなり掛金額が安定しない
  ・掛金の払込みが滞ると、直ちに給付も滞る
  ・積立金が無い(=資金的裏付けが無い)ため、受給権の保全に問題がある

などの理由から、厚生年金基金確定給付企業年金など法令上の企業年金制度では賦課方式の採用は認められていない。しかし、税制優遇の無い非適格年金(いわゆる自社年金)においては、ごく少数ながらも賦課方式が採用されていると聞く。当BLOG管理人が聞いた例だと、国債や個別企業の株式・社債等の保有が立場上憚られる某中央銀行の企業年金では、(積立金を保有せずに済むことから)賦課方式を採用しているとの事。

一方、公的年金においては、
  ・加入者集団が大きく安定しているため、給付額も掛金額も安定する
  ・掛金負担者と年金受給者が一致しないため、所得再分配に馴染む
  ・積立金を保有しない(または小規模な)ため、インフレに強い

などの理由から、先進諸国の公的年金制度の殆どが賦課方式に近い方式で運営されている。しかし、積立金を一切保有しない完全な賦課方式はごく稀で、準備金のような形で積立金を保有する例が多い。日本においては、基礎年金は賦課方式で運営されているが、厚生年金保険は4〜5年分の給付を賄えるだけの巨額の積立金を有していることから、論者によっては「修正賦課方式」「修正積立方式」などの呼称を思い思いに用いている(これらの語句には明確な定義は存在しない)。


<関連エントリ>
The企業年金BLOG(2010/11/24): 年金制度における財政方式とは(総論)
The企業年金BLOG(2010/11/29): 完全積立方式 ─ 「利息だけで生活」を具現化
The企業年金BLOG(2010/12/6): 退職時年金現価積立方式 ─ 退職金で個人年金をポンと購入
The企業年金BLOG(2010/12/9): 加入時年金現価積立方式 ─ 入社時にポンと一括払い




 ←気が向いたら是非クリック願います

posted by tonny_管理人 at 23:59 | Comment(0) | TrackBack(0)
| シリーズ:財政方式 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。