2010年05月26日

「社会保障の明日」増補版

国内潮流と国際比較から探る、社会保障の明日(あした)

社会保障の明日(増補版)社会保障の明日(増補版) 日本と世界の潮流と課題
西村 淳

ぎょうせい 2010-04
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年金・医療・介護等の政策立案に携わってきた現役官僚が著しただけあって、日本の社会保障制度の潮流および国際動向がコンパクトにまとまめられており、情報の鮮度と正確さにおいては他の類書の追随を許さない。また、知識面だけでなく「社会保障は負担ではなく給付から論ずるべき」「社会保障の役割は自立支援と相互参加の促進」などの骨太かつ深い考察も読み応えがある。これまでの厚生労働行政に対して現状肯定かつ自画自賛的な記述が目立つのはご愛嬌だが(汗)、それを逆手にとって「そこまで分かっているのに何故手を打たない!?」と歯痒さを感じるようになるまで何回も読み返すと、社会保障に対する質の高い問題意識が醸成されること必至。社会保障を専攻する学生・社会人であれば、是非とも目を通すべき一冊。
なお今回の増補版では、第1部第5章が差し替えとなったほか、社会保障に関する直近の情勢(オバマ政権の医療保険制度の成立等)が反映されている。

<関連エントリ>
The企業年金BLOG(2008/1/21): 「社会保障の明日」






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2010年02月25日

「福祉の経済学―21世紀の年金・医療・失業・介護」

公的社会保障制度の経済的効率性の高さを説く意欲作

福祉の経済学―21世紀の年金・医療・失業・介護福祉の経済学―21世紀の年金・医療・失業・介護
Nicholas Barr

光生館 2007-03
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原著はNicholas Barrの「The Welfare State As Piggy Bank: Information, Risk, Uncertainty, and the Role of the State」で、直訳すると「貯金箱としての福祉国家:情報・リスク・不確実性および国家の役割」である。著者は、福祉国家の機能を以下の2つに分けている。
  ・富裕層から貧困層への再分配 (ロビン・フッド機能)
  ・一個人のライフサイクル内での再分配 (貯金箱機能)
前者は社会保障制度の機能として広く認知されているところだが、本書の最大の特徴は、後者の貯金箱機能の重要性を強調している点にある。貯金箱機能を有する他の手段としては貯蓄や民間保険があるものの、貯蓄は「どの程度貯めるべきか」が不明瞭であり、また民間保険は情報の不完全性から生じる弊害(逆選択、モラル・ハザードetc)ゆえに、それぞれ効率性を欠く。公的社会保障制度は、情報の不完全性、リスク、不確実性(計測不可能なリスク)を克服する最も効率的な手段であり、所得再分配機能だけでなく経済的効率性の観点からも公的社会保障制度の存在は肯定される──というのが本書の主張である。
また各章においても、失業保険、医療保険および年金について「情報の経済学」の視点から綿密な考察が重ねられており、社会保障の経済的効率性を論じる上で示唆溢れる内容となっている。本書を読めば、日本の経済学者の一知半解な改革論よりも遥かに深みのある考察を体感できること請け合い。なお原著では「教育」「旧共産主義国家の体制移行」に関する章もあったが、邦訳版では割愛されている。


<関連エントリ>
The企業年金BLOG(2008/12/5): 公的年金にまつわる10の神話
The企業年金BLOG(2009/11/2): 積立方式の難しさを物語るOECDのレポート
The企業年金BLOG(2010/2/17): 週刊ダイヤモンドの年金特集 〜暴論と正論のカオス〜



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2009年08月27日

「社会保障・社会福祉の原理・法・政策」

著者の30年にわたる研究成果の集大成

社会保障・社会福祉の原理・法・政策社会保障・社会福祉の原理・法・政策
(新・MINERVA福祉ライブラリー6)

堀 勝洋

ミネルヴァ書房 2009-04
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元厚生官僚にして各種審議会委員を永らく歴任してきた社会保障研究の第一人者による、自身の研究の集大成とも言える一冊。社会保障・社会福祉を専門にしているだけあって、取り扱う領域は介護、医療、年金、育児と幅広く、現在の社会保障の主要論点および政策課題をこれ一冊で網羅することができる。450ページにもわたる労作だが、参考文献等も詳細に示されており、学術的価値は高い。企業年金に関する記述は、公的年金と私的年金との類型比較で顔を出す程度。
しかし、本書の白眉は何といってもあとがき「私の社会保障研究30年」である。日々の研究スタイルや闘病生活などの描写もさることながら、著者自身の経歴(官庁〜官庁系シンクタンク〜学界)と、その時々の社会保障に関する研究・政策論争がオーバーラップして描かれている様は、さながら日本の社会保障研究史といった様相。著者は今年度末で定年を迎えるそうだが、本稿はまさに著者の最終講義といっても過言ではない。



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2009年04月22日

「はじめての社会保障」第7版

内容の網羅性・正確性は元厚生官僚ならでは

はじめての社会保障 第7版はじめての社会保障 第7版―福祉を学ぶ人へ (有斐閣アルマ)
椋野 美智子

有斐閣 2009-03
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本書に限らず有斐閣アルマ全般に言えることだが、「解説が簡潔かつ分かり易い」「直近の時事的トピックが反映されている」「トピックの網羅性が高い」などの配慮がなされている。また、本書は元厚生官僚の大学教授らが手がけているだけあって、当該分野における改正動向および統計数値の正確さは折り紙付き。体系的な入門書としてのファーストチョイスに最適。
なお今回の第7版では、保険法の改正を受けて民間保険に関する記述が主に手当てされている。公的医療・年金制度を重視する前版所有者が敢えて買い替えに走る必然性は薄いかもしれない。



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2009年03月05日

「だまされないための年金・医療・介護入門」

政治家に、官僚に、そして経済学者に騙されないために

だまされないための年金・医療・介護入門だまされないための年金・医療・介護入門―社会保障改革の正しい見方・考え方
鈴木 亘

東洋経済新報社 2009-01
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要は「現行の賦課方式を清算して積立方式へ再移行せよ」という、世代間の不公平および経済的効率性に重点をおいた社会保障改革論。著者の社会保障財政への危機意識は真っ当なものであり、政府・役所・社会保障の専門家(=御用学者)の作為・不作為に対する怒りには共感する部分も多い。
しかし、自身の推計結果の優位性を強調するあまり、積立方式のデメリットを過小評価している感がある。例えば、

 「人口構成の変化には中立的でも運用リスクはモロに被るのでは?」
 「そもそも運用収益率だって人口構成の影響は免れないのでは?」
 「社会保険と民間保険を"保険"というだけで同一視するのはどうよ?」
 「チリなどでは積立方式へ移行して失敗に終わったが、その総括は?」  etc


・・・など、積立方式にも数々の疑問が指摘されているのだが、本書では「過去10年はデフレだったから問題ない」「官僚や御用学者による屁理屈」等と切り捨てるか無視を決め込むかしており、こうした反論に真摯に対処しようとしない姿勢は誠に残念である。(著者に限らず)経済学者はただでさえ自身の推計結果の有意性のみを振りかざす独善的傾向があるだけに、これでは経済学者は官僚以上に一面的で視野が狭いとの印象を与えてしまいかねない。

とはいえ、経済学者による典型的な年金議論を俯瞰できるという意味では、とっつき難いが有用な一冊である。政府や官僚だけでなく経済学者に騙されないためにも、彼らが弄する数字のマジックの手口は心得ておきたい。少なくとも、著名なブロガーココとかココとか)が評価しているというだけで本書を鵜呑みにするような愚は避けたいものだ(汗)。



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2008年11月13日

「はじめての社会保障」

内容の網羅性・正確性は元厚生官僚ならでは

はじめての社会保障 第6版はじめての社会保障 第6版―福祉を学ぶ人へ (有斐閣アルマ)
椋野 美智子、田中 耕太郎

有斐閣 2008-03
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本書に限らず有斐閣アルマ全般に言えることだが、「解説が簡潔かつ分かり易い」「直近の時事的トピックが反映されている」「トピックの網羅性が高い」などの配慮がなされている。しかも本書は元厚生官僚の大学教授らが手がけているだけあって、当該分野における改正動向および統計数値の正確さは折り紙付き。とりわけ、医療・年金制度改正が相次いでいる2005年以降は毎年改訂を施しているほど。体系的な入門書のファーストチョイスには最適。



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2008年01月31日

「社会保障と日本経済」

社会保障は経済成長に貢献している!? 初の実証分析による反論

社会保障と日本経済社会保障と日本経済―「社会市場」の理論と実証
(総合研究 現代日本経済分析 1)

京極 高宣

慶應義塾大学出版会 2007-07-28
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近年は、財界・経済学者・マスコミ等を中心に「社会保障が日本経済の足を引っ張っている」という論調が幅を利かせているが、そうした昨今の風潮に真っ向から反論を試みたのが本書。
「社会保障制度の発展が様々なルートで日本経済を底支えしている」という主張は、これまでも局所的に展開されてきたが、ともすると観念的な主張のみに終始し、数値的な根拠を伴った反論はこれまで皆無であった。著者もまた、過去の講演著作等ではデータ等を省略することが多かったが、本書では、これまで掲載を簡略化していた膨大な数値・データ等を惜しげもなく全収録したため、400ページを超える大著となったが、説得力は増した。これまで経済学者からの一方的な批判に対し、実証分析を以って反論に転じたのは、おそらく本書が初ではないか。 その他にも、社会保障を論ずる上で示唆となる考察がテンコ盛りで、今後わが国の社会保障を語る上で外せない定番となること必至。経済学に疎い社会保障学者は勿論のこと、社会保障に疎い経済学者にも是非目を通して貰いたい一冊。なお、本書で語られている社会保障の経済効果は、以下の通り。

 ◆生活安定効果(年金等の社会保障給付が消費を下支え)
 ◆所得再分配効果
 ◆労働力保全効果(医療制度が労働力の創出・保全を下支え)
 ◆産業・雇用創出効果(医療・介護業界の経済波及効果は公共事業以上)
 ◆内需拡大効果(地域経済で最も成長著しいのは介護産業)
 ◆資金循環効果(年金積立金は金融資本市場への資金供給源)



─────────────────────────

【追記】
「細かい数値はいいから著者の主張のエッセンスを知りたい」という向きには、以下の資料・書籍をオススメしておく。


<第11回厚生政策セミナー(主催:国立社会保障・人口問題研究所)>
 ○資料(pdfファイル)
 ○講演録(pdfファイル)

<書籍>
社会保障は日本経済の足を引っ張っているか社会保障は日本経済の足を引っ張っているか
京極 高宣

時事通信出版局 2006-11
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2008年01月21日

「社会保障の明日」

論点整理と国際比較から、社会保障の今後の方向性を示唆

社会保障の明日社会保障の明日―日本と世界の潮流と課題
西村 淳

ぎょうせい 2006-12
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厚生労働省の現役官僚が著しただけあって、現在の社会保障制度の課題および国際動向が分かり易くまとまっているのは勿論だが、更に、「自立支援」「ソーシャル・インクルージョン(社会的統合)」「経済成長との調和(社会保障は経済成長を阻害しない)」といった今後の重要トピックもつぶさに押さえており、情報の鮮度と正確さにおいては他の類書の追随を許さない。これまでの厚生労働行政に対して現状肯定かつ自画自賛的な記述が目立つのはご愛嬌だが(汗)、それを逆手に「そこまで分かっているのに何故対策を打たない!?」と歯痒さを感じるようになるまで本書を何回も読み返すと、社会保障に対する質の高い問題意識が醸成されること必至。社会保障をテーマに卒論・修士論文を一丁仕上げようという学生であれば、是非とも参考文献に加えるべき一冊。見た目は薄いが情報量の密度は濃い。



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