2010年12月09日

加入時年金現価積立方式 ─ 入社時にポンと一括払い

加入時年金現価積立方式 (initial funding method)
  準備時期 : 加入(入社)時
  準備形態 : 一括払い
  準備方法 : 掛金+運用収益

加入時年金現価積立方式は「加入時積立方式」とも言い、「年金給付に要する費用を、その者が制度に加入した時に一括で積み立てる」仕組みである。前回説明した退職時年金現価積立方式は掛金を退職時に一括払いする方式だが、加入時年金現価積立方式の掛金を入社から退職まで予定利率で複利運用すると、退職時年金現価積立方式の掛金と一致する。つまり、両者の掛金の差は入社から定年までの運用収益の差であり、両者は対をなす財政方式であると言える。
加入時年金現価積立方式では、給付原資を加入時に一括積立するため、年金受給者だけでなく在職中の加入者についても資金的裏付けを有することとなる。また、年金原資を加入時から退職時まで長期にわたり運用することとなるため、あらゆる積立方式の中で運用収益に依存する割合が最も高い(完全積立方式よりは小さいが)。
しかし、入社したばかりで即戦力でもない新入社員のために定年退職金に準ずる規模の支度金を用立てる気前の良い企業は皆無であろう。また、これは退職時年金現価積立方式にも言えることだが、掛金の一括払いは分割払いに比べて資金準備の負担が大きいほか、損金算入を過大に認めると企業の節税手段と化す恐れがあるため税制上優遇されることはない。以上の点から、加入時年金現価積立方式が現実の年金制度で採用される可能性は極めて薄い。


<関連エントリ>
The企業年金BLOG(2010/11/24): 年金制度における財政方式とは(総論)
The企業年金BLOG(2010/11/27): 賦課方式 ─ 運用収益を当てにしない財政方式
The企業年金BLOG(2010/11/29): 完全積立方式 ─ 「利息だけで生活」を具現化
The企業年金BLOG(2010/12/6): 退職時年金現価積立方式 ─ 退職金で個人年金をポンと購入



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2010年12月06日

退職時年金現価積立方式 ─ 退職金で個人年金をポンと購入

退職時年金現価積立方式 (terminal funding method)
  準備時期 : 退職時
  準備形態 : 一括払い
  準備方法 : 掛金+運用収益

退職時年金現価積立方式とは、文字どおり「年金給付に要する費用を、その者の退職時に一括で積み立てる」仕組みである。例えるなら、退職金で個人年金をポンと一括購入(一時払い)するようなものである。退職時に一括で積立を行うということは、(1)加入期間中は掛金拠出を行わない、(2)加入期間中は積立金を有しないことを意味する。
この方式では、年金受給者は将来の年金給付を保証されるものの、在職中の加入者については何ら資金的保証が無い。また、退職者の増減によって毎年の掛金拠出額が大きく変動するという欠点を持つ。これはまさに退職一時金制度にも共通する欠点であり、費用負担の平準化が大きな設立目的の一つである企業年金制度においてこの方式を採用する意義は薄い。

──とここまで書くと、退職時年金現価積立方式は賦課方式と似通っているような印象を抱くが、退職時年金現価積立方式は退職時(=年金支給開始時)に積立金をドカンと用立てるため、その積立金が稼ぐ利息分だけ賦課方式よりも費用負担は小さくなる。具体例として、年額10万円を支払う10年確定年金(期初払い)の数値例を以下に記載した。賦課方式の場合、運用収益(利息)を一切見込まないため掛金費用総額は100万円(=10万円×10年)となるが、退職時年金現価積立方式では運用収益が高くなるほど費用総額が小さくなることがわかる。

 <賦課方式>
  ・100万円 (=10万円×10.0000)
 <退職時年金現価積立方式>
  ・年1%で運用する場合:95.7万円 (=10万円×9.5660)
  ・年3%で運用する場合:87.9万円 (=10万円×8.7861)
  ・年5%で運用する場合:81.1万円 (=10万円×8.1078)


余談だが、退職時年金現価積立方式が事前積立方式に含まれるかどうかは、書籍・文献によって解釈がまちまちであり判然としない。


<関連エントリ>
The企業年金BLOG(2010/11/24): 年金制度における財政方式とは(総論)
The企業年金BLOG(2010/11/27): 賦課方式 ─ 運用収益を当てにしない財政方式
The企業年金BLOG(2010/11/29): 完全積立方式 ─ 「利息だけで生活」を具現化
The企業年金BLOG(2010/12/9): 加入時年金現価積立方式 ─ 入社時にポンと一括払い



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2010年11月29日

完全積立方式 ─ 「利息だけで生活」を具現化

完全積立方式 (complete funding method)
  準備時期 : 加入前
  準備形態 : 一括払い(制度開始までに全額用意)
  準備方法 : 運用収益のみ

完全積立方式という言葉は、「完全な積立」という語感が災いしてか、賦課方式の反対概念として事前積立方式全般を指す意味で使われることが多い。しかし、これは大きな誤りである。
年金数理における完全積立方式とは、「年金給付に要する費用を事前に全額用意し、給付を運用収益のみで賄う」という仕組みである。例えるなら、庶民なら誰しも一度は考える「宝くじで一等前後賞が当たれば一生利息だけで食って行ける!」という妄想を具現化した方式である。かつて松下幸之助が提唱した無税国家論もこの考え方に近い。完全積立方式では、給付を積立金の利息のみで賄うため、掛金負担は一切要しない。これは、運用収益を当てにせず掛金のみで給付を賄う賦課方式とは対極に位置する財政方式である。

しかし、完全積立方式を実施するためには、利息だけで給付が賄えるだけの莫大な積立金を用意しなければならない。例えば、現在の日本の公的年金の年間給付総額(約45兆円)を全額運用収益だけで賄おうとすると、以下の規模の積立金が必要となり、いずれも現在の日本の公的年金積立金の規模(約200兆円)を遥かに凌駕する。また、運用利回りの見込みによって積立金の規模が大きく異なっているが、これは、資産運用の不振による運用収益の低下が即座に給付に影響するという完全積立方式の特性を如実に物語っている。

  ・年5%で運用する場合:  900兆円 (=45兆円/0.05)
  ・年3%で運用する場合:1,500兆円 (=45兆円/0.03)
  ・年1%で運用する場合:4,500兆円 (=45兆円/0.01)


以上の点から、完全積立方式は年金数理上の概念としてはあり得るものの、資金準備面および資産運用面でのハードルが高いため、実際に採用される可能性は極めて薄い。


<関連エントリ>
The企業年金BLOG(2010/11/24): 年金制度における財政方式とは(総論)
The企業年金BLOG(2010/11/27): 賦課方式 ─ 運用収益を当てにしない財政方式
The企業年金BLOG(2010/12/6): 退職時年金現価積立方式 ─ 退職金で個人年金をポンと購入
The企業年金BLOG(2010/12/9): 加入時年金現価積立方式 ─ 入社時にポンと一括払い



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2010年11月27日

賦課方式 ─ 運用収益を当てにしない財政方式

賦課方式 (pay-as-you-go method)
  準備時期 : 支払時
  準備形態 : 分割払い(給付を支払う都度)
  準備方法 : 掛金のみ

賦課方式というと、「年金給付に必要な原資を、その時の現役世代の保険料で賄う仕組み」という「世代間扶養」の考え方とともに説明されることが多い。しかし、これは一面的な見方であり、賦課方式の本質を表すものではない。
年金数理における賦課方式とは、「年金給付に要する費用を事前に積み立てることなく、給付が発生する都度、その費用を掛金のみで賄う」というある時払い(pay-as-you-go)の仕組みであり、積立金を保有しない、すなわち運用収益を当てにしないのが賦課方式の本質である。運用収益を全く見込まないため、掛金負担はあらゆる財政方式の中で最も大きいものとなる。賦課方式の説明において世代間扶養が取り沙汰されるのは、一個人のライフサイクルにおいては掛金負担時期と年金給付時期が一致しないことから、掛金負担者と年金受給者が結果として異なることによる。

企業年金においては、
  ・加入者集団の構成によっては、給付額の変動が大きくなり掛金額が安定しない
  ・掛金の払込みが滞ると、直ちに給付も滞る
  ・積立金が無い(=資金的裏付けが無い)ため、受給権の保全に問題がある

などの理由から、厚生年金基金確定給付企業年金など法令上の企業年金制度では賦課方式の採用は認められていない。しかし、税制優遇の無い非適格年金(いわゆる自社年金)においては、ごく少数ながらも賦課方式が採用されていると聞く。当BLOG管理人が聞いた例だと、国債や個別企業の株式・社債等の保有が立場上憚られる某中央銀行の企業年金では、(積立金を保有せずに済むことから)賦課方式を採用しているとの事。

一方、公的年金においては、
  ・加入者集団が大きく安定しているため、給付額も掛金額も安定する
  ・掛金負担者と年金受給者が一致しないため、所得再分配に馴染む
  ・積立金を保有しない(または小規模な)ため、インフレに強い

などの理由から、先進諸国の公的年金制度の殆どが賦課方式に近い方式で運営されている。しかし、積立金を一切保有しない完全な賦課方式はごく稀で、準備金のような形で積立金を保有する例が多い。日本においては、基礎年金は賦課方式で運営されているが、厚生年金保険は4〜5年分の給付を賄えるだけの巨額の積立金を有していることから、論者によっては「修正賦課方式」「修正積立方式」などの呼称を思い思いに用いている(これらの語句には明確な定義は存在しない)。


<関連エントリ>
The企業年金BLOG(2010/11/24): 年金制度における財政方式とは(総論)
The企業年金BLOG(2010/11/29): 完全積立方式 ─ 「利息だけで生活」を具現化
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2010年11月24日

年金制度における財政方式とは(総論)

財政方式とは、年金制度から支払われる年金・一時金給付を賄うために、その財源(費用)をどのように調達・確保するかという準備計画であり、また、そのために必要な掛金をどのように定めるかという手法を意味する。
──と教科書的に解説すると何やら小難しそうに聞こえるが、要は貯蓄計画である。例えば、10年以内に1,000万円を貯蓄すると決意したとしよう。この場合、「毎月5万円ずつ貯める」「賞与が年2回出たら20万円ずつ貯める」「貯金だけでなく高利回りも狙う」といったことを大雑把ながらも計画することだろう。年金制度もこれと同様である。年金制度の場合、財政方式の違いは、主に下記3点の違いに集約される。

  準備時期 : 加入前か、加入時か、加入期間中か、退職時か、支払時か
  準備形態 : 一括払いか、分割払いか
  準備方法 : 掛金のみか、運用収益のみか、掛金と運用収益の両立か


年金の財政方式に関する議論では、賦課方式積立方式の2つが良く取り上げられる。しかし、賦課方式は数多ある財政方式のone of themに過ぎず、また、積立方式にも数多くのバリエーションがある。この両者だけで財政方式の全てを語ろうとするのは、モーツァルトとベートーヴェンの両者だけでクラシック音楽の全てを語ろうとするのと同じくらい粗雑な議論であることをまずは認識していただきたい(特に経済学者諸君!)。
当BLOGでは、次回以降、各財政方式の違いについて適宜解説していきたい。


─────────────────────────

【2010.12.5追記】
主要な財政方式の分類について以下のとおり掲載しました。


◆主要な財政方式の分類
1 非積立方式
 ・賦課方式 (pay-as-you-go method)
2 積立方式
2.1 非事前積立方式

 ・退職時年金現価積立方式 (terminal funding method)
2.2 事前積立方式
2.2.1 非平準積立方式

 ・単位積立方式(一時払積増方式) (unit credit method)
 ・加入時(年金現価)積立方式 (initial funding method)
 ・完全積立方式 (complete funding method)
2.2.2 平準積立方式 (level premium method)
2.2.2.1 閉鎖型

 ・加入年齢方式 (entry age normal cost method)
 ・個人平準保険料方式 (individual level premium method)
 ・到達年齢方式 (attained age normal cost method)
 ・(閉鎖型)総合保険料方式 (closed aggregate cost method)
2.2.2.2 開放型
 ・開放型総合保険料方式 (open aggregate cost method)
 ・開放基金方式 (open aggregate normal cost method)




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